数学の世界を支える記号たち――プラス(+)、マイナス(−)、ルート(√)、イコール(=)など――これらは今では当たり前のように使われていますが、その歴史を辿ると、人々の創意工夫や数学の進化が見えてきます。今回は、これらの記号がどのように生まれ、どんな旅を経て今に至ったのかを探ってみましょう。
プラス記号(+)とマイナス記号(-)
プラス記号(+)とマイナス記号(−)は、現代の数学において欠かせない記号ですが、その起源は商業や実用的な計算の中にあります。これらの記号は、計算を簡潔に表現するために中世ヨーロッパで進化し、数学的な用途へと発展していきました。
プラス記号(+)
プラス記号(+)は、14世紀半ばにフランスの数学者ニコラ・オレーム(Nicole Oresme)によって使用され始めました。オレームは、1351年頃にプラス記号を手書きの計算やメモに取り入れ、1360年には著書『比例アルゴリズム(Algorismus Proportionum)』で公表しました。これは、ラテン語で「and」を意味する「et」を速記したものであると考えられています。この時点で、プラス記号は数値や量を「加える」ことを表現するための記号として文献に記録された最初の例の一つとなります。
その後、15世紀末から16世紀初頭にかけて、ドイツやイタリアの商業書類で「+」が頻繁に使用されるようになり、ヨハネス・ヴィッドマン(Johannes Widmann)の1489年の著書『Mercantile Arithmetic(商業算術)』で再び取り上げられました。この本は、プラス記号が数学の分野で広がるきっかけとなりました。
マイナス記号(−)
一方、マイナス記号(−)は、15世紀の商業記録で「不足」や「減少」を表すシンプルな水平線として登場しました。特に中世ヨーロッパの商人たちが、在庫や価格の差異を表現するために使用していました。
マイナス記号も、プラス記号とともにヴィッドマンの著書で紹介され、数学の計算における「引き算」や「負の数」を示す記号として受け入れられていきました。

ドイツでの「p」と「m」
面白いのは、ドイツでは一時的に「+」の代わりに「p(plus)」、そして「−」の代わりに「m(minus)」という文字を使う文化があったことです。この表記法も15世紀の商業や数学の文脈で使用されていましたが、視覚的な分かりやすさから、最終的に「+」と「−」が標準となりました。
これらの記号は、商業における計算の効率化を目的に使用されていましたが、数学者たちによって代数学や算術の分野に取り入れられるようになりました。16世紀には、ルネサンス期の数学者たちによる数学書に「+」と「−」が頻繁に登場し、ヨーロッパ全体で普及していきました。
ルート記号(√)
ルート記号(√)は、16世紀初頭に登場しました。この記号を初めて導入したのは、ドイツの数学者クリストフ・ルドルフ(Christoff Rudolff)です。彼の1525年の著書『Coss(代数学。正式な名称はかなり長い)』で、平方根を示すために「√」が使用されました。

この記号の形状は、ラテン語で「根」を意味する「radix」の頭文字「r」の速記形が由来とされています。当時の数学者たちは、手書きで速記できる記号を好んで使用していました。ルドルフはこの記号を平方根に割り当て、次第に数学界で広まっていきました。
ルート記号は、数学表記の簡潔化に大きく貢献し、他の記号とともに現代数学の基盤を築いたのです。
イコール記号(=)
16世紀半ば、イギリスの医師および数学者ロバート・レコード(Robert Recorde)が、現代の数学で不可欠なイコール記号(=)を発明しました。彼の1557年の著書『The Whetstone of Witte(知恵の砥石)』で初めて使用されています。
「=」の形状と理由
レコードが選んだ「=」というデザインは、2本の平行な線で構成されており、「これほど平等なものは他にない」という理由から採用されました。ただし、彼が最初に使った記号は、現在よりもかなり長いもので、「──」を2本書いたのに近い形状でした。

彼は次のように記しています。
to avoid the tedious repetition of these words: “is equal to” I will set as I do often in work use, a pair of parallels, or duplicate lines of one [the same] length, thus: =, …
「~に等しい」という退屈な単語の繰り返しを避けるために、仕事でよく使用するように、一対の平行線、または同じ長さの重複線を設定することにする。つまり、「=」だ。
『The Whetstone of Witte』, Robert Recorde (1557)
その後、手書きの効率や印刷の利便性から「=」は短くなり、現在の形に進化しました。
ちなみにこの『The Whetstone of Witte(知恵の砥石)』は、英語圏において初めてプラス(+)とマイナス(-)の記号を紹介したものでありました。
掛け算記号(×)
掛け算記号(×)は、1631年にイギリスの数学者ウィリアム・オートレッド(William Oughtred)によって初めて導入されました。この記号の由来は、ギリシャ文字「Χ(キー)」に由来するという説や、十字架を斜めにしたという説など諸説ありますが、視覚的にわかりやすく、プラス記号(+)との混同を避けるために選ばれたとされています。
オートレッド以前にも掛け算を表現する方法はいくつか存在しましたが、彼の「×」は教育現場や出版物を通じて広まり、特に初等教育の分野で定着していきました。他にも掛け算記号として「・(ドット)」もありますが、こちらは「×」よりも早くから使用されていたという説もあります。いずれにせよ、「×」は教育用として広く認識されています。
割り算記号(÷)
割り算記号(÷)は、1659年にスイスの数学者ヨハン・ラーン(Johann Rahn)が考案しました。この記号は、分数の構造を模してデザインされており、横棒(―)が「割る」という操作を、上下の点が「分子」と「分母」を象徴しています。
「÷」が登場する以前は、割り算を分数形式やコロン(:)で表現するのが一般的でした。特にドイツ語圏では「:」が現在でも使われています。
まとめ
それぞれの記号は、それぞれの時代における数学者たちの創意工夫によって生まれました。これらの記号が生まれた背景には、計算を効率化し、数学をより多くの人々に普及させるという大きな目標がありました。
これらの記号を使うときには、それが15~17世紀にわたる長い歴史と工夫の産物であることを思い出してみてください。数学記号の進化は、科学と人類の進歩を支える不可欠な一部なのです!
参考
- 数学記号の由来について(1)-四則演算の記号(+、-、×、÷)- – ニッセイ基礎研究所
- History of mathematical notation(数学表記法の歴史) – wikipedia(英語版)
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